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知床遊覧船社長の記者会見ぜんぶ見た

昨日、知床遊覧船の桂田精一社長が約2時間の記者会見に応じ、事故の状況を語りました。私はすべて視聴しましたが、質問する記者の追及不足感アリアリで、隔靴掻痒感がひたすら沸いてくる残念な応答でした。

記者会見を見ていて気がついたことを3点指摘します。

1. 安全統括管理者が経営者(社長)だった

サービス業において、安全管理とコストカットは大抵両立しません。現場担当者は安全やサービスの質を重視し、経営者はコストカットを重んじる傾向があります。船舶のみならずあらゆるサービス業は、この二律背反のせめぎ合いの上に成り立っています。ではどちらを優先するかというと、サービスを受ける側(乗客)としては当然「安全」が最優先されるべきであり、また会社もきっとそうであるものと思い込んでいるのですが、経営者の立場から見ると、それでは経営が成り立ちません。もっとも余計なコストがかかるのが、まさにこの「安全」にかかわる領域だからです。ですから、経営者が安全統括管理者を兼任するのは、泥棒に警官や検察官をやらせるようなもので、絶対に避けなければなりません。

桂田社長は会見の席上、自分は天気図が読める、天気予報で波浪注意報(現場海域では3メートル近い波が想定)が出ていたが、出航前の海は穏やかで波もなかった(ので大丈夫と判断した)と話していました。明らかに自然の猛威を軽視した態度であると言わざるをえません。私は魚釣りが好きなので海で過ごす時間が比較的多いのですが、凪の状態からいきなり突風が吹き荒れてきたり三角波が押し寄せてきたりと、海は人間の「常識」をいとも簡単に裏切ります。けっして安易な楽観や期待で自然に対峙してはいけません。これが北海道最北端の知床の海なら、相手を甘く見てはいけないのはなおさらです。

また、会社に備え付けの無線アンテナが壊れていて、同業他社の無線を借りないと交信できない状態だった、その同業他社に知床遊覧船の社員は運行中常駐していなかった。衛星電話が以前から不調なのは知っていたが、修理して直っているものと思っていた。衛星電話が実際に通話できる状態かどうかは、今年初の運航だったので事前に確認していなかった。

安全統括管理者として完全に落第ですね。

2. 無責任の体系

桂田社長は記者から、当日は荒天が予想され他の船舶や漁船は港から出なかったのに、なぜ敢えてカズワンだけは出航したのかと何度も詰問され、そのたびに「それは条件付き運航だったから」と強調していました。条件付き運航とは、現場の船長判断で港に引き返すこともあるという条件付きで遊覧船を出すということです。しかし、どのような基準で帰港を決断するかは明確になっておらず、実態としては豊田船長に一任されていたようです。船長の元同僚はその人柄を「サービス精神がすごかった」「イケイケ」「無理をする」と評しています。

観光船の安全を司るのが経営者の桂田社長だったことが今回の事故を招来した一つ目の要因であることは既に述べました。現場からの声を経営に伝える運航管理者(豊田船長)が安全を軽視するかのような言動を普段からとっていたのなら、知床遊覧船という会社全体に「乗客の安全」を担保する機構が欠落していたのでしょう。丸山眞男の言葉を借りて言うならば、まさに「無責任の体系」です。

今回の事故で「条件付き運航」の実態が大きな争点になるであろうことは会見の冒頭から容易に推察できました。そこで、私は知床遊覧船の運航記録上、条件付き運航の頻度や実務がどうなっているのかずっと気になっていたのですが、それを社長に質問する記者がなかなか現れずもどかしい思いをしていました。2時間超に及ぶ記者会見のほぼ終わりかけでようやくA新聞の記者がこの点を持ち出しましたが、社長の返答はしどろもどろ。「正確には分からない」「1/3くらいは欠航する」「けっこうあります」などなどでした。やはりこの点は重要であるように思われます。

さらに、会社が定めた安全運航管理規定を共有(公開)する意思があるかと問われて、桂田社長は何度も拒否。途中から折れて一部を読み上げましたが、このあたりも非常に怪しいです。何か表に出ると困るような記述があるのかもしれません。そもそも会社が一方的に悪い事故を起こした後の記者会見で、もう平身低頭謝り倒すしかない状況なのに、社長判断で重大な情報を隠しているかのような印象を与えること自体、危機管理対応のイロハがなっていません。

桂田社長は冒頭と最後に土下座し、自らに責任があると繰り返しはするものの、責任の所在を現場責任者である豊田船長になすりつけるような発言が目立っており、この点もまた記者会見を視聴したものに不快感を与える悪循環になっています。安全運航管理者として不適切であるだけでなく、事故の最終的な責任を回避しているかのように見えるのは、会社の経営者としても失格でしょう。乗客家族への記者会見になかなか出てこなかったり、報道向けの記者会見が遅れたりした理由を問われると、「社長は今は出てこなくていい(から航空券の手配等の業務を優先してくれ)といわれた」、「あまりおおごとにしてくれるなと希望する家族もいる」として、自らの行動を正当化しました。事故でも事件でも言えることですが、最終責任者の顔が一切見えない、雲隠れしているような印象を抱かせるのは、当時者はもちろん、この事故のなりゆきを見守る人々全員のルサンチマンを増幅する効果しかありません。

3. いまだに営業中の会社サイト

実におそるべきことですが、このブログ記事を書いている4月28日(木)11時30分現在でも、この「知床遊覧船」の公式サイトが閲覧できます。船舶紹介のページに「安全への取り組み」という項目が出てくるのですが、

こちらの写真では全員が救命胴衣を着用しているように見えますが、今回の沈没事故では実際に浸水が始まってから船長または甲板員が乗客に救命胴衣を着用するように慌てて伝えていたという証言もあります。これも小型船舶に乗船する場合は常識の部類に入りますが、荒天時でなくとも救命胴衣を常時着用すべきだし、今回のように条件付き出航ということであればなおさらのことです。いかに安全が軽視されていたかを物語っているように思われます。

ヒグマに出会える確率94%や98%のコースが喧伝されていますが、そのデータは2016年の自社調べ。おそらく現在の桂田社長が経営を引き継ぐ前の数値ですね。

ブログの更新も2019年8月で止まっています。こちらは知床遊覧船で長年船長を務めていた人が会社から雇い止めになる前まで続けられていたものと思われます。

会社サイトの端々で、桂田氏が社長になってから現場との意思疎通がうまくいかなくなっていた様子が窺えるのが興味深いです。それにしてもまずサイトを閉鎖するなりお詫びの一言を載せるなりの対応を見せるべきではないでしょうか。こんな事故の後で、敢えてこの会社の遊覧船に乗りたいという人はまずいないでしょう。事故を起こした船は沈没場所が特定されておらず、乗客全員も未だに見つかっていない状況です。サイトを見て、いまここに物見遊山で出かけるという気分にはならないでしょう。

まとめ

今回の遊覧船沈没は、第一義的には会社の杜撰な安全管理が招いた事故であり、起こるべくして起きた不幸です。また、事故対応のまずさという意味でも、失敗学の教科書になってもおかしくないくらいの拙さです。社長が見せるべきだったのは、嘘偽りなくこの悲劇を厳粛に受け止めているという姿勢であり、乗客の家族に対しては謝り尽くしても尽くせないという誠意です。この期に及んで社長が何をしたからといって、マイナス評価がプラスに変わることはありませんが、これ以上の失点を食い止めることはできたはずです。

しかし、土下座の後ですくっと起き上がり、記者からの詰問に対してもどこか他人事のように淡々と対応する桂田社長の姿は、絶対にこの会社の遊覧船だけは乗りたくないと感じさせるほどの悪印象を視聴者に与えました。あんな中途半端な記者会見をやるくらいなら、やらない方がマシだったのではないかと思われるほどです。報道陣向けの記者会見でもあんな感じだったので、乗客家族向けの対応はさらに酷い状況であったことが容易に推察されます。

実は記者会見の冒頭から不穏な空気が漂っていました。桂田社長は事前に用意された文書を読み上げながら謝罪、さらに

「当社としては捜索中の被害者の方々の捜索するためにできうるかぎりの...尽くしていく所在でございます。また当社として、今後被害者の方々のお気持ちを第一に考えて対処するとともに、事故の原因究明に向けての協力を全力で行っていく所在でございます」

ノッケからこれですから、ズッコケですね。このあと2時間続けられる社長の発言がすべて軽くなってしまいました。

実は今回の報道向け記者会見で明らかになっていない点がいくつかあります。箇条書きにしておきます。

  • 知床の遊覧コースではAUの電波が届きにくいことが広く知られていた。豊田船長は連絡用に携帯電話(スマーホフォン)を持っていたが、どの会社のものだったかは不明。桂田社長はdocomoに切り替えるようには伝えていた。
  • カズワンの帰港時刻は13時で、異常を知らせる無線連絡が同業他社に届いたのは13時過ぎだった。会社から遊覧船に現状報告の連絡をとっていたかどうかがよく分かっていない。社長はこの間、遠く離れた病院へ家族を迎えにいっていた(出産したばかりの奥さんのようです)。社長が会社に戻ったのが16時すぎ。豊田船長から帰港が遅れるという連絡が入っていたとの話も出ているが、誰がそれを聞いたのかの確認が取れていない。
  • 条件付き出航の頻度。どれくらいの割合が条件付き出航で、うちどれくらいの割合で途中帰港したのかのデータ。安全軽視で“条件付き”が常態化していた可能性がある。
  • 会社が定めた安全運航規程の中身。会社の責任を追及する上で、何か問題のある記述が含まれている可能性がある。
  • 救命胴衣の着用基準。どのような場合に乗客に胴衣を着用するよう義務づけていたのか。

なお、メーデー民なら常識ですが、飛行機の機内で着水前に救命胴衣を膨らませてはいけません。絶対に、です。

理由が知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい。メーデーでは、墜落しかかっている飛行機に乗り合わせた警官が海に着水する前に自分の救命胴衣を膨らませ、しかも隣に座っていた恋人の胴衣も膨らませ、着水後は自分だけ生き残ったという悲劇が紹介されています。彼は胴衣が墜落時のショックを和らげると考えたようですが、着座した状態で膨らませると水中または水面から脱出する時に浮力が邪魔になってしまい、飛行機の内部から逃げられなくなってしまうのです。


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